18歳、複雑系  ティーンズパワー

東京新聞 1999年(平成11年)11月5日(金)

野原耕二 音楽プロデューサー

 

 1999年、ローランギャロス・センターコートは異常な雰囲気でファイナルマッチを迎えてた。カムバックしてきたグラフと女王ヒ ンギスの勝負が見えてきた時、今やヒンギスはブーイングとの戦いであった。次の瞬間、十八歳の女王がとった行動はグラフへのアンダースローサーブだった。

 シドニーオリンピック野球アジア予選の大役を無事つためた西武松坂は、パシフィックリーグ優勝をダイエーが決めた翌朝、スポーツ記者に「何故、日本はペナントレースを中断してオリンピック予選に対処できなかったのか?」と18歳のエースは寂しげに語った。

 ドビッシー「月の光」の演奏を終え、記者会見の席で「医者とハーピストどちらをとるんですか?」と今年になって何十回も聞かれた質問に、18歳の医大生ハーピスト竹松舞はいつもの笑顔で答えた。「今、決めなくてはいけませんか?」。

 
 

 1980年、19年前の記憶を蘇らそうと試みてみた。昭和55年に置き換えても皆目見当がつかず、改めて忙しさに日々終われている自分に反省の念を持ってしまった。

 
 

 見よう見真似でアイマックを開いた。「1980年、10大ニュース」検索。

 イラン・イラク戦争。ボイジャー1号土星接近。モスクワ五輪開催。

デジタルサービス統合網。ISDNの基本概念。大平首相急死。巨人王選手現役引退。竹の子族。学校内暴力多発。ピカピカの一年生。

この年に生まれ、2000年二十歳。21世紀21歳。なんと語呂の

合うティーンズミラクルたち。

 1980年代に米国・サンタフェ研究所が発表し、日本のマスコミ誌上に頻繁に登場した言葉に「複雑系」がある。

数年前、日本も20年計画総予算20兆円という大型プロジェクト「脳科学の時代」を発表。

 

 

 脳の複雑な動きを理解し、老化や病気を防ぎ、今までのコンピューターとまったく違う原理で働く脳型コンピューターを開発し、21世紀人類の生活基盤に役立てる事を目的としている「複雑系の脳科学」である。今までの脳科学では「脳」は巨大なコンピューターであり、何千億個と言われている脳細胞=ICから形成されている。人類科学では「脳」に匹敵するコンピューターはHAL2000とかSFの世界となり、未だにほとんど明かされていない。ところが近年の情報網の多様性は1980年生まれ以後の「脳」のシステムをも変えたようだ。

 
 

 「複雑系脳科学」では「脳」とは、何千億個の脳細胞という大型コンピューターをインターネットしているものだという。となると「かっこいい、ダサイ」も何千億個のコンピューターが瞬時に出すインターネット的回答となる。理解する複雑さは私の脳の中にはないと諦めた方がよさそうである。

 
 

 竹松舞のインタビューが続いている。「努力」とか、「頑張る」って余り好きではありません。私自身ハープも医学も始めたからには、上手になりたい、ちゃんとやり遂げたいと思うから、ただ実行するだけです。自分がどこまで出来るかわかりません。今目の前にあることをひとつひとつ熟していく事が大切な事と思うんです。ハープも医学もわたくしにとっては大切な道ですから。

 「努力」「頑張る」は複雑系の十代には「ダサイ」となる。二兎を追うものは一兎も取れずも複雑系脳科学の解答ではなさそうだ。ヒンギスが放ったアンダースローサーブ、松坂が投げた150キロの問いかけも自分にとって大切な道を守ろうとする旧大人社会への「理由ある反抗」ではないだろうか。

 
 

 この原稿を書いてる最中、また新しい話題が新聞の一面に飛び込んできた。庄司紗矢香16歳日本人初、パガニーニコンクール栄冠。私自身も気になる存在だったので、この夏音楽事務所からビデオ・資料を送ってもらってあった。数多くの資料は16歳にして数々の音学歴と絶賛の評論を得ていた。

 現在、ケルン在住、カトリック系の女子校に通い、ヴァイオリンのレッスンと夜は大好きな語学、文学の毎日だという。さらに美術にも関心があるという。記事の最後に映画の話になり「レットヴァイオリン」はまだ観ていないけどと興味を示すが、「タイタニック」は「みんなが観るから観ません」ときっぱりと言った。

 
 

 21世紀は君たちテーィンズミラクルの時代である。しかしながら20世紀の老兵も死なず。「老人力」パワーなる鎧を身に着け複雑系社会の荒波など乗り切る勇姿を見せたいものである。